「他のIBD患者さんは病気と付き合いながらどんな風に働いているのだろう?」。IBDとともに働く人々から届いたそんな声をもとに『IBDとはたらくプロジェクト』は、患者さんの交流の場としてオンラインセッションを開催。日々の生活や働く上での悩みや想いを共有してもらいました。
- IBD(Inflammatory Bowel Disease:炎症性腸疾患)とは
- IBD (Inflammatory Bowel Disease:炎症性腸疾患)は、主にクローン病と潰瘍性大腸炎を指し、未だに原因が特定されていない国の指定難病です。小腸や大腸の粘膜に慢性の炎症を引き起こし、長期に渡って再燃と寛解を繰り返します。患者数は世界規模で増加傾向にあり、日本には約29万人(クローン病:約7万人、潰瘍性大腸炎:約22万人)いるとされています*1。10 代から20代の若年層に好発する特徴があります*2,*3。
<参考文献>
- *1 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業難治性炎症性腸管障害に関する調査研究2016
- *2 難病情報センター(クローン病): http://www.nanbyou.or.jp/entry/81
- *3 難病情報センター(潰瘍性大腸炎): http://www.nanbyou.or.jp/entry/62
- IBDとはたらくプロジェクトについて
- IBDとはたらくプロジェクトとは2019年5月、NPO法人IBDネットワークおよび難病専門の就労移行支援事業を行う株式会社ゼネラルパートナーズの協力のもと、ヤンセンが立ち上げたIBD疾患啓発活動です。IBD患者さんが、難病を抱えながらも自分らしくはたらくことを後押しするとともに、社会や企業への理解促進などを通じて働きやすい就労環境作りにも取り組みます。詳しくは、特設サイト(https://www.ibd-life.jp/project/)をご覧ください。
はじめに―今回のイベントについて―
今回は20代〜30代の患者さんと50歳以上の患者さんの2つのトークルームに分かれて、それぞれのテーマに沿ったセッションを開催。これまでの経験をもとに、職場での現状や病気の伝え方、就業時間の工夫や今後の展望などを自由に話してもらいました。
※症状や経過には個人差があります。治療法や食事については、主治医にご相談ください。
TALK ROOM 01
<若年層のIBD患者さんが考えるよりよい働き方>
2-1. 会社や周囲への
病気についての伝え方
- 就職や転職の際に病気のことをどう伝えるか。それぞれの選択や方法、タイミングについて共有してもらいました。
Aさん(20代男性) 学生時代の就職活動では、病気の事は最終面接のときに言おうと決めていました。新卒で入社した会社ではB to Cの仕事をしていて、トイレに立った時に顧客対応ができなくなる可能性があったので、周囲にも伝えていました。一度転職して今は2社目なのですが、今の職場はB to Bの営業で自分でスケジュールを立てられるので伝えていません。職種や配属先によって伝え方は変わると思います。
※B to C:企業が一般の消費者に対して直接モノやサービスを提供する仕組みのこと。
※B to B:企業が企業に対してモノやサービスを提供する仕組みのこと。
Bさん(20代男性) 寛解と再燃を繰り返すので、その時の症状によっても変わってきますよね。私の場合は再燃すると1日10回位トイレに行くこともあるので、近しい同僚には伝えるようにしました。今は落ち着いている状態なので広くは伝えなくてもいいと思っていますが、同時に「再燃したらどうしよう」という不安もあります。
Cさん(30代女性) 今の職場では応募の時から伝えていました。また普段の仕事で関わる方には伝えています。私は発症してから就職と離職のどちらも経験していますが、今は寛解期が続いているので正規雇用に向けて転職を考えています。職場の選び方はその時の自分の自信によって変わると感じています。
2-2. 就業時間中の
過ごし方の工夫
- 一人一人異なる症状や状況の中で、働きやすい環境を作るために工夫していることについて話してもらいました。
Aさん 私の場合は「焦り」を引き金におなかが痛くなることがあるので早めに動くようにしています。商談の1時間前には現場に着き、付近のトイレを把握したり…。体調面でのリスクヘッジが仕事でもプラスに働き、「行動が早い」と褒められたこともありました。体調面でも仕事面でも万全の状態を作れたらいいですよね。
Bさん 私は外回り営業のような仕事なのですが、午前中は病院に行って午後から外回りといった具合に通院との両立を組み込むようにしています。自分で余裕をもったスケジュールが組めるので働きやすいです。ただ、体調によっては取引先と取引先の間で何度もコンビニのトイレに行くこともあり、約束の時間に間に合わないこともあります。事前に連絡は入れますが、相手には申し訳ないと思うこともあります。
Cさん 私の場合は睡眠不足になると疲労がたまってくるとおなかの調子も崩れがちになるので、睡眠や休憩時間の確保には気をつかっています。その点ではリモートワークの活用も一つの工夫ですが、以前に比べて職場に戻るような方向になっているので取りづらくなっている印象です。裁量によって働き方を変えられるのが理想的ですね。
2-3. 「やりたいこと」と「体調
管理・働きやすさ」のバランス
- 病気があっても、自分らしく働くために。体調と仕事のバランスや今後のビジョンについて語ってもらいました。
Aさん 元々はお客様と触れ合うB to Cの仕事がしたかったのですが、自分の体調も考えて「今の仕事で頑張ろう」という方向へ気持ちがスライドしていきました。「やりたいことができなくなった」というよりも「病気のおかげで新しい可能性の発見ができた」と考えたら、今の仕事は楽しいです。ネガティブをポジティブに変換することも重要だと感じます。
Bさん 結婚してから「転勤の少ない仕事に変えたい」という気持ちが芽生え、転職を視野に入れ始めました。病気を抱えながらの転職は勇気がいりますが、「どんな仕事がしたいか」だけでなく、自分の性格や人生と照らし合わせて「どんな風に働きたいか」ということも重要。それらを踏まえた上で病気との兼ね合いを考えていきたいです。
Cさん 魅力的な会社や仕事を見つけても、「この体調で働けるか」を考えるとつい尻込みをしてしまう現状はあります。でも、せっかく体調がいい状態をキープしているのだから、「今こそチャレンジしたい」という気持ちもあって…。葛藤はありますが、できる限り前向きな選択ができたらと思っています。
2-4. セッションを終えての感想
Aさん なんだか、もともと仲が良かったような…(笑)。そのくらい楽しく有意義な会でした。抱える症状や状況がそれぞれ違うこともあり、多様な考え方があるんだと勉強になりました。
Bさん 3ヶ月くらい前に診断が下りたばかりだったので、病気と付き合いながら働いている当事者の方と話せたのはとても貴重な時間でした。
Cさん IBDと付き合いながら働いている同士、いろんな意見を交わすことができてとても楽しかったです。親近感が湧き、「一人じゃないんだ」と前向きな気持ちになれました。
TALK ROOM 02
<Over50のIBD患者さんが考えるよりよい働き方>
3-1. これまでの就職・
転職活動や職場環境
- 病気とともに長年キャリアを重ねてきたみなさんが経験した、これまでの労働環境について話してもらいました。
Dさん(60代男性) 以前は病気と付き合いながら同じ職場で長く働いていました。会社側が気遣って配属を変えてくれたので、その分「環境に甘えず、この職場に必要なスキルを持たないと」と考えるようになり、経理関係の勉強をしていました。求職中の現在、税理士などのわかりやすくスキルを示せる資格を取っておいてもよかったかと思っています。
Eさん(50代男性) 発病したのは27年前で、人生の半分ほどを病気と一緒に暮らしています。症状が安定せず働けない時期もありましたが、落ち着いた頃に今の会社を見つけて、病名を告げた上で転職をしました。ずっと同じ職場で働いているので、視点を変えて違う世界を見てみたい気持ちがあり、現在転職を考えています。
Fさん(70代男性) 私はいくつかの仕事を経験した後、最終的には60歳まで公務員として働きました。現在は家族の介護と農業をしながら生活をしています。退職後に介護の資格もいくつか取得はしたのですが、訪問先で頻繁にトイレをお借りするのが難しく、自分の職場としては考えにくいという現状がありました。
3-2. 病気とともに長く働くために
気をつけていたこと
- よりよい環境で仕事をするために、みなさんが取り入れていた習慣や活用していたものについて共有してもらいました。
Dさん 職場での病気との付き合い方としては、悪くなる兆しをつかんで予防することを心がけていました。2時間ぐらいトイレから出られず会議を急遽欠席したこともあったので、主治医と相談して整腸剤を出してもらったり、朝食をしっかり食べるようにしたり…。体調が崩れにくくなるコツを見つけて習慣化するようにしていました。
Eさん 管理職になってからは外に移動することも多いのですが、電車に乗るのが億劫なので、トイレがついている車両や駅内のトイレの案内図などを把握するようにしています。コロナの影響もあり、コンビニなどでトイレを貸してもらえないこともあるので付近で使えるトイレもチェックしています。ドラッグストアは、トイレが外にあることが多いので活用しています。
Fさん 私もトイレのコントロールには悩まされました。就業中に薬を飲んだり、あまり食べ過ぎないようにしたりと試行錯誤の日々。知らない土地に行く時が一番不安なので、今でも出先のトイレ事情は細かく確認しています。最近はスマホアプリでトイレの場所を探せるものがあるので、非常時には役に立つのではないかと。
3-3. これからの人生で描く展望
- 今後の人生をさらに豊かに生きるために、病を抱えながら働くことの意義について意見や想いを交換しました。
Dさん 病気と付き合いながら、今の世の中でどんな資格が活用できるかの情報を集めていきたいと思っています。年齢を重ねるごとにますます体調維持が不可欠だと感じると同時に、年齢に左右されず社会とつながり続ける姿勢も「生きがい」という意味で大事かなと思っています。
Eさん リモートワークをする人が増えていく中で「これまでとは違う仕事で残りの人生を歩んでみるのも楽しいかもしれない」と思い始めました。病気とともに働くことに理解のある企業さんの門を叩いてみるのも一つの術かなと思っています。我慢をしてきたことも多いので、残りの人生は少しチャレンジの意味も込めて欲張ってみたいと思っています。
Fさん 働き方が多様化したことでこれまでは考えなかった選択肢が出てきたような気がしています。リモートワークや副業もスタンダードになってきましたし、体と相談しながら自分に向いている仕事やスキル、資格を探すのもいいかなと思っています。不足している農業や漁業の働き手としてお手伝いに入るのも面白そうです。
3-4. セッションを終えての感想
Dさん 比較的年齢が近しい方と思いを分かち合うことができ、病気を抱えながらもキャリアを積んだ方々から様々な経験も聞けて興味深かったです。この御縁を通じて、また違う仕事や人との出会いがあるのかもしれないとわくわくしました。
Eさん 住んでいる場所がそれぞれ違うこともあり、地方の状況を知る点でも知見を増やすことができました。私たちよりも下の年齢の患者さんにも働く上でそれぞれの事情があると思いますが、互いに新しい視点を得て、何かのきっかけづくりになればと思います。
Fさん 家にいながら同じ境遇の方と話ができるというのは本当に有益なことだと思います。働き方や就職に関していろんなお話が聞けてよかったです。年齢を問わず、少しでも多くの人が自分の生きがいになるような仕事に出会えたらと思います。
まとめ
同じ世代を生きる患者さんたちがそれぞれの思いや悩みを共有した今回のフリーセッション。病気とともに自分らしく働くことをポジティブな姿勢で受け入れたり、悩みながら立ち止まったりするリアルなお話を伺うことができました。今回のフィードバックがIBDとはたらく人々の日々に少しでも役立つことを願っています。