※IBD(Inflammatory Bowel Disease):炎症性腸疾患。一般に潰瘍性大腸炎とクローン病のこと。
クローン病の専門医が回答
クローン病は主に小腸や大腸などに炎症が起こる病気です。炎症が起こると、小腸における栄養の吸収、大腸における水分の吸収がさまたげられるため下痢や腹痛などの症状を伴うことがあり、体調によっては食事に注意が必要な場合があります。
このページでは、日々の食事について、クローン病の患者さんからよくいただくご質問に回答します。あなたが送りたいライフスタイルを実現する一助として、食生活でのお悩みが少しでも解消できれば幸いです。
クローン病と診断されました。食事で気をつけることはありますか?
活動期や狭窄(腸管の内腔が狭くなる)がある場合では、食事によっては症状が悪化することがあるので注意が必要です。寛解期では、1日に必要な栄養素(炭水化物、脂質、たんぱく質)を過不足なくとるように心がけましょう。
クローン病の症状には波があり、症状が悪化している状態を「活動期」、症状が落ち着いている状態を「寛解期」といいます。活動期と寛解期では、食事で気をつけるポイントが異なるため、分けて記載しました。
■活動期(軽症~中等症)
- 腸管粘膜の回復のためにエネルギーを多く使うので、1日に必要な栄養素(炭水化物、脂質、たんぱく質)を過不足なくとるように心がけましょう。1日に必要なエネルギー量の目安はQ9をご参照ください。
- 下痢を起こしやすい食品(脂質の多い物、乳製品や香辛料)や飲み物(アルコールやカフェイン)などは控えめに摂取するようにしましょう。
- 下痢による脱水症状を防ぐために、水分と電解質(体の機能の維持や調節を担うナトリウムやカリウムなど)をこまめに補給しましょう。
- 狭窄(腸管の内腔が狭くなる)がある場合は、食物繊維は控えめにしましょう。
- 腸管の炎症の改善や栄養素の補給のために、栄養療法を行うことがあります。栄養療法についてはIBD LIFE:クローン病 どんな治療をするの?をご参照ください。
■活動期(重症)
- この時期は、腸管を安静に保ちながらエネルギーをとるために、経腸栄養療法や、場合によっては、完全静脈栄養療法で栄養、水分、薬剤を体内にとり入れます。栄養療法については IBD LIFE:クローン病 どんな治療をするの?をご参照ください。
■寛解期
- 食事を制限する必要はなく、普通の食生活で問題ありませんが暴飲暴食には気をつけましょう。
- 栄養不足や体重・体力が落ちることがないように、食べる内容と量を意識した食事を心がけましょう。
- 食事を気にしすぎてストレスがたまらないようにしましょう。
クローン病にはこの食品をとればよいと言われているものはありますか?
また、食事に関して迷ったときはどうすればよいですか?
特定の食品でクローン病の症状が改善されたというエビデンス(科学的根拠)はなく、全てのクローン病の患者さんに勧められる食事はありません。
患者さん一人ひとりに合う食品・合わない食品がありますので、まずはそれを知ることが大切です。症状が落ち着いている状態「寛解期」では食事制限はありませんが、症状が悪化している状態「活動 期」や狭窄(腸管の内腔が狭くなる)があるときは、食事に関して気をつけるポイントがありますのでQ1の回答も併せてご参照ください。
■自分に合う食品・合わない食品の見つけ方
食事内容と体調を記録しておくと、何を食べてどんな症状がでたのかを振り返ることができます。続けられそうな簡単なことからはじめてみてはいかがでしょうか。
(例)
- ノートに食べた食品や量などの簡単なメモをとる。
- スマートフォンなどで食事の写真を撮り、その日の体調も一緒に記録する。
■注意したほうがよい食品は?
腸を刺激する食品(香辛料やカフェインなど)の場合は特に注意して、少しずつ試して様子をみるようにしましょう。食べると下痢をしやすくなるといった体調変化がわかったら、過量の摂取は控えましょう。食事の量によっても体調変化が起きる場合がありますので、ご自身に合う食事の量も意識してみましょう。
■食べてもよいか、迷ったときには?
迷ったときにはひとりで悩まずに、主治医や看護師、管理栄養士に相談しましょう。
揚げ物などの脂肪の多いものを食べるときに気をつけることはありますか?
症状が悪化している状態「活動期」には、脂質の多いものを控えましょう。
脂質は体を動かすエネルギーの源となるエネルギー産生栄養素*のひとつで、ホルモンや体の細胞をつくるときに必要な栄養素です。しかし、消化に時間がかかるため、特に活動期には下記のポイントを意識してみましょう。
*エネルギー産生栄養素:エネルギーをつくる栄養素のこと。炭水化物(糖質・食物繊維)、脂質、たんぱく質を指す。
■活動期
- 脂質の多い食品はとりすぎないように工夫をしましょう。
■寛解期
- 脂質は、とりすぎなければ控える必要はありませんが、1日に必要な栄養素(炭水化物、脂質、たんぱく質)を過不足なくとるように心がけましょう。
たんぱく質を魚や肉などからとるときに気をつけることはありますか?
症状が悪化している状態「活動期」と症状が落ち着いている状態「寛解期」では、たんぱく質のとり方を変えましょう。
たんぱく質は体を動かすエネルギーの源となるエネルギー産生栄養素*のひとつで、筋肉や皮膚、臓器などがつくられるときに必要な栄養素です。
魚に関しては、食べても問題ないと言われていますが、バターなど脂質を使って味つけをするときや脂身が多い魚を食べるときは、食べすぎないように量を意識しましょう。
肉に関しては、種類によっては脂質を多く含むものもありますので、脂質の量にも注意しましょう。
*エネルギー産生栄養素:エネルギーをつくる栄養素のこと。炭水化物(糖質・食物繊維)、脂質、たんぱく質を指す。
■活動期
- 魚や肉などに含まれる脂質の量に気をつけるようにしましょう。
■寛解期
- 食べる量に気をつけて1日に必要な栄養素(炭水化物、脂質、たんぱく質)を過不足なくとるように心がけましょう。
■たんぱく質の違い
たんぱく質は動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の大きく2つに分けられます。
動物性たんぱく質
魚や肉、卵、牛乳、乳製品など
植物性たんぱく質
大豆、納豆、豆腐、おから、豆乳など
■動物性たんぱく質をとるときの工夫
脂質が多い肉をとるときには、以下のような工夫をしてみましょう。
- ゆでる、蒸す、焼くといった調理法で余分な脂を落とす。
- 肉の脂身は取り除く。
- 脂質の少ない部位を選ぶ。
野菜などの食物繊維をとるときに気をつけることはありますか?
症状が悪化している状態「活動期」や狭窄(腸管の内腔が狭くなる)がある場合では、食物繊維は控えめにしましょう1)。
一般的に、食物繊維には、腸の動きを活発にして便を出しやすくする、善玉菌を増やして腸内環境を整えるなどのはたらきがあります。食物繊維は小腸で消化・吸収されず、そのまま大腸まで届けられます。
■活動期・狭窄(腸管の内腔が狭くなる)がある場合・寛解期においても、狭窄がある場合
- 腹痛の原因となり得るので、食物繊維は控えめにしましょう。
■寛解期において、狭窄(腸管の内腔が狭くなる)がない場合
- 厳しい制限は必要ありません。
米やパン、甘いお菓子などから炭水化物(糖質)をとるときに
気をつけることはありますか?
症状が悪化している状態「活動期」でも症状が落ち着いている状態「寛解期」でも脂質を多く含む甘いお菓子やパン(クロワッサンなど)をとるときは量に注意しましょう。
炭水化物は、体を動かすエネルギーの源となるエネルギー産生栄養素*のひとつで、糖質と食物繊維でできており、エネルギー源となるのは糖質です。糖質は脂質やたんぱく質に比べて消化・吸収が早く、すぐにエネルギーになりますので、必要量をとることが大切です。厚生労働省では、1日の総摂取カロリーの50~65%は炭水化物からとることを目標としています2)。
*エネルギー産生栄養素:エネルギーをつくる栄養素のこと。炭水化物(糖質・食物繊維)、脂質、たんぱく質を指す。
■糖質をとるときの注意
- 脂質が多く含まれているパン(クロワッサンやデニッシュなど)や甘いお菓子はとりすぎに注意しましょう。
- 糖分ゼロと表示されている清涼飲料水やお菓子などには人工甘味料が使われていることがあります。人工甘味料が含まれている食品は下痢の原因となることがあるため、とりすぎないように気をつけるとよいでしょう3)。
■糖質を制限するときの注意
- ダイエットなどで糖質を極端に制限すると、たんぱく質や脂質がエネルギー源として利用され、筋肉が分解されることで筋力や体力が低下してしまうことがあります。
- 体重管理が必要な方は管理栄養士と相談しながら、体調に合わせて無理なく行いましょう。
乳製品、アルコールやカフェインなどの嗜好品をとるときに
気をつけることはありますか?
乳製品は症状が悪化している状態「活動期」でも症状が落ち着いている状態「寛解期」でもとりすぎないように気をつけ、「活動期」はアルコールやカフェインを控えるようにしましょう。
一般的に、ヨーグルトなどの乳製品に含まれる乳酸菌やビフィズス菌は、腸内環境の改善を促します3)。
アルコールやカフェインなどの腸を刺激するものをとると、腹痛や下痢を引き起こすことがあります。一方で、このような嗜好品は無理な制限をすることでストレスになる場合もありますので、症状や体調に合わせて上手に摂取するとよいでしょう。
乳製品をとるときの注意
- 活動期でも寛解期でも生クリームやバターといった脂質が多い乳製品をとりすぎないように注意しましょう。
- 乳製品に含まれる乳酸菌やビフィズス菌などを含め、どの製品が合うかは人によって異なります。試しながら自分に合うものを見つけましょう。
- 乳製品をとると下痢や腹痛が起こる乳糖不耐症の患者さんは注意が必要です。
アルコールやカフェインをとるときの注意
■活動期
- アルコールやカフェインは控えるようにしましょう。
■寛解期
- アルコールは主治医と相談しながら、飲むときには量や頻度に注意しましょう。
- コーヒーや紅茶などのカフェインを含む飲料を飲むときは、量に気をつけましょう。
下痢が続くので食事や水分をとるのが怖いです。どうしたらよいですか?
特に症状が悪化している状態「活動期」では、脱水にならないよう、塩分などと一緒に、こまめな水分補給を心がけましょう。
下痢のときに食事や水分をとると、もっと症状がひどくなるのでは?と心配になるかもしれません。通常、小腸で水分はきちんと吸収されていますので、脱水症状に気をつけて、こまめに水分補給をすることが大切です。
■活動期でも寛解期でも下痢が続いているときに心がけてほしいこと
- 脱水症状(口の渇き、体のだるさ、立ちくらみ、脱力、微熱など)に注意し、こまめな水分補給を意識しましょう。
- 同時に、スポーツドリンクやスープなどで、塩分などのミネラルの補給も心がけましょう。
1日に必要なエネルギー量はどのくらいですか?
症状が悪化している状態「活動期」と症状が落ち着いている状態「寛解期」では、1日に必要なエネルギー量が異なります。
体に必要なエネルギー量は普段の活動量のほか、体調によっても変化します。
摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスが取れていれば基本的に体重変動は起こりませんので、体調が安定しているときの体重を基本として、大きく減少したときは主治医や管理栄養士に相談しましょう。
■活動期
- 炎症や発熱などにより、健康な人よりエネルギー消費量が増えます3),4)。標準体重1kgあたりの摂取エネルギー量は30~35kcal/日*を目安にして算出されます3)。
■寛解期
- 健康な人と同様のエネルギー量である標準体重1kgあたり25~30kcal/日*を目安にしてよいと考えられています3)。
*:1日に必要なエネルギー量=標準体重[kg]×30~35kcal(寛解期の場合:25~30kcal)
標準体重=身長(m)×身長(m)×22
例)身長160cmの人では、標準体重は1.6×1.6×22≒56.3kg
1日に必要なエネルギー量は56.3×30~35kcal≒1,690~1,970 kcal
外食をするときに気をつけることはありますか?
症状が落ち着いている状態「寛解期」は1日に必要な栄養素(炭水化物、脂質、たんぱく質)の量と内容を意識し、食べすぎないようにしましょう。症状が悪化している状態「活動期」や狭窄(腸管の内腔が狭くなる)がある場合は外食をする際に、いくつか気をつけるポイントがあります。
食事会や旅行などのイベントでは、友達や家族と外食を楽しみたいものです。しかし、外食のメニューは自宅での食事よりも脂質やたんぱく質、食物繊維、香辛料が多めで、高カロリーになりがちです。外食をする際は、Q1~Q9も併せて参考にしていただきながらメニューを選んでみましょう。
■外食時に気をつけたいポイント
- 多くの脂質や香辛料が入っている食品を含むメニューは、体調のよいときにしましょう。
- 狭窄(腸管の内腔が狭くなる)がある場合は、食物繊維の多い料理は控えましょう1)。
- 体調が悪いときは炭水化物中心のメニューを選び、食物繊維の多い料理は控えめにしましょう。
- 外食で食べたもの、その後の体調を記録することで自分に合ったメニューや量を探してみましょう。
- 1)Pituch-Zdanowska A, et al.: Prz Gastroenterol. 2015; 10(3): 135-141
- 2)厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書
- 3)難治性炎症性腸管障害に関する調査研究(鈴木班):炎症性腸疾患患者さんの食事についてQ&A, 2020年3月作成
- 4)Forbes A, et al.: Clin Nutr. 2017; 36(2): 321-347
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