※IBD(Inflammatory Bowel Disease):炎症性腸疾患。一般に潰瘍性大腸炎とクローン病のこと。

どんな治療をするの?

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専門医が監修

長堀 正和  先生

長堀 正和 先生

東京医科歯科大学病院
臨床試験管理センター 准教授

ご所属名・役職名は2024年3月13日時点のものです。

クローン病には、薬物療法、外科的療法、栄養療法などがあります。

クローン病では、重症度(炎症や症状の強さ)に合わせた治療が必要

近年、治療が進歩しているものの、発症の原因はわかっておらず、未だ完治させる治療法が見つかっていません。そのため、適切な治療を継続することで炎症を抑え、寛解(症状が落ち着いている状態)を維持することが重要です。クローン病の治療には、炎症を早く抑えるための寛解導入療法と、炎症が抑えられ症状が落ち着いている状態を維持するための寛解維持療法があります。
治療方法には、薬物療法(経口剤、注射剤)、栄養療法、血球成分除去療法、内視鏡的バルーン拡張術、外科的治療(手術)などがあります。

治療の流れ

薬物療法:腸の炎症を抑える

クローン病の治療では、腸管の炎症を抑えて症状を鎮め、寛解をめざしながら栄養状態を改善し、寛解の状態を長く続けていくことが目標になります。
薬物療法では、症状やこれまでの治療内容、治療への反応性などに応じて5-ASA製剤(5-アミノサリチル酸)、免疫調節薬、生物学的製剤やJAK阻害薬などを使用します。ステロイドは寛解導入や炎症が強い場合に一時的に用いられます。

5-ASA製剤(5-アミノサリチル酸)

直接腸の粘膜の炎症を抑える薬剤です。寛解導入と寛解維持のために用いられます。
剤型:経口剤

ステロイド

炎症を抑える働きをもつ薬剤で、活動期に炎症を鎮めて寛解に導きます。強い炎症がある際に必要な量と期間だけ使用し、徐々に使用量を減らしていきます。寛解を維持する効果は認められていないため、寛解維持療法では使用されません。
剤型:経口剤、注射剤

免疫調節薬

炎症に直接働きかけることなく、体内の過剰な免疫反応を抑えることで結果的に炎症を抑えるため、薬の効果があらわれるまでに数ヵ月かかる場合があります。免疫調節薬は、寛解導入療法でステロイドを使用し、その後ステロイドの減量や中止により再燃した場合に使用されます。主に寛解維持療法として使用されます。
剤型:経口剤

生物学的製剤

過剰な炎症を引き起こす体内物質の働きを抑える薬剤です。これまでの治療で十分な効果が得られない場合に使用されます。また、寛解維持療法にも使用されます。
剤型:注射剤
注射剤には、点滴と皮下注射があります。

インテグリン阻害薬(生物学的製剤)

大腸の組織にリンパ球が過剰に入り込むのを抑制し、腸管の炎症を抑える薬剤です。これまでの治療で十分な効果が得られない場合に使用されます。また、寛解維持療法にも使用されます。
剤型:注射剤

ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬

ヤヌスキナーゼ(JAK)と呼ばれる酵素を阻害することで、炎症を引き起こす物質を抑える薬剤です。これまでの治療で十分な効果が得られない場合に使用されます。また、寛解維持療法にも使用されます。
剤型:経口剤

栄養療法:食事による刺激を減らしながら、栄養状態を改善

食事による刺激を減らして腸の炎症を抑えながら、栄養状態を改善していくために、栄養剤を投与します。栄養療法には、経腸栄養療法と完全静脈栄養療法があります。

経腸栄養療法

液体の栄養剤を口から服用するか、鼻からチューブを入れて投与します。栄養剤には、消化の過程をほとんど必要としない消化態栄養剤・成分栄養剤と、消化の過程を必要とする半消化態栄養剤があります。

完全静脈栄養療法

重度の狭窄や、広い範囲の小腸病変がある場合、経腸栄養療法ができない場合などに用いられます。太い静脈にカテーテル(体内に挿入して治療や検査を行う医療用の細い管)を入れておき、高濃度の 栄養輸液を注入します。

血球成分除去療法:炎症にかかわる成分を血液から除去

血球成分除去療法は、栄養療法や薬物療法では十分な効果が得られない場合に用いられます。具体的には、血液を腕の静脈から体外に取り出し、特殊な筒(カラム)に血液を通過させて炎症に関わる血液成分を吸着させて取り除く治療法です。

血球成分除去療法

血球成分除去療法

難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班(鈴木斑):クローン病の皆さんへ 知っておきたい治療に必要な基礎知識 第4版. 2020年3月改訂(http://www.ibdjapan.org/patient/pdf/02.pdf)(2024年3月13日アクセス)より引用改変

内視鏡的バルーン拡張術:狭くなった腸管を拡張

内視鏡的バルーン拡張術は、狭くなった腸管に内視鏡を用いてバルーン(風船)を設置し、バルーンを膨らませて腸管を広げる治療法です。ただし、すべての狭窄を拡張できるわけではありません。

内視鏡的バルーン拡張術

血球成分除去療法

難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班(鈴木斑):クローン病の皆さんへ 知っておきたい治療に必要な基礎知識 第4版. 2020年3月改訂(http://www.ibdjapan.org/patient/pdf/02.pdf)(2024年3月13日アクセス)

外科的治療:病変部の切除や拡張(形成術)

薬物療法・栄養療法、内視鏡的バルーン拡張術では十分な効果が得られず、社会生活が困難なときには、外科的治療である手術も、QOLの改善をめざすための選択肢として検討します。
日本では、初回手術の累積率は、診断から5年後で32%、10年後で55%、15年後で70%、20年後で82%の患者さんが何らかの手術を受けているという報告があります。クローン病は病変部を取り除いても再発しやすいため、できるだけ腸を残すようにします。

※Sato Y, et al.: J Gastroenterol Hepatol. 30(12): 1713-1719, 2015

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