専門医が回答
横山薫 先生
北里大学医学部 消化器内科学 講師
ご所属名・役職名は2022年7月13日時点のものです。
IBD患者さんは青年期に発症することが多いため、就学や就職などのライフステージの変化が大きい時期でもあり、疾患により生活上で困難が生じる場合も少なくありません。より良い生活を送るためにはIBDに関する社会支援制度をよく知り、主体的に活用することが重要です。社会支援制度は地域差があり、時期によって変化することがあります。知識が不明確であったり申請に悩んでいたりするときは、各申請窓口や医療機関のソーシャルワーカーに相談しましょう。
主な制度
①医療費負担
医療費負担を軽減する制度としては「難病医療費助成制度」や「高額療養費制度」があります。
- 難病医療費助成制度
クローン病や潰瘍性大腸炎をはじめとした、厚生労働省による難病医療費助成制度の対象疾病(指定難病)に対し、医療費を助成する制度です。
都道府県が指定した医療機関(難病指定医)でクローン病または潰瘍性大腸炎の診断を受け、医療費助成*1、3を申請して認定されると、治療(保険診療)の医療費自己負担に対して、公費助成が受けられます。(受付窓口は、都道府県・指定都市により異なります。お住まいの
都道府県・指定都市の窓口にお問い合わせください。)
- *1 クローン病では、原則、重症度分類(IOIBDスコア*2)が2点以上の場合に医療費助成の対象となります※。
- *2 IOIBDスコア:International Organization for Study of Inflammatory Bowel Disease(IOIBD)によって開発された指標です。規定された項目について1項目1点とした合計点数で判定します※、※※。
- *3 潰瘍性大腸炎では「臨床的重症度*4」による分類で中等症もしくは重症の患者さんが対象となります。しかし、軽症の患者さんであっても、長期的に高額医療の継続が必要な場合には、助成の対象となります※※※。
- *4 臨床的重症度:「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班における重症度分類※※※
※難病情報センター:クローン病(指定難病96)(https://www.nanbyou.or.jp/entry/219)
(2023年12月25日アクセス)
※※NPO法人日本炎症性腸疾患協会(CCFJ)編:クローン病の診療ガイド 第3版, p14, 文光堂, 2021
※※※難病情報センター:潰瘍性大腸炎(指定難病97)(https://www.nanbyou.or.jp/entry/218)
(2023年12月25日アクセス)
※「高額かつ長期」とは、月ごとの医療費総額が5万円を超える月が年間6回以上ある者(たとえば医療保険の2割負担の場合、医療費の自己負担が1万円を超える月が年間6回以上)。
難病情報センターホームページ(https://www.nanbyou.or.jp/entry/5460)
(2023年12月25日アクセス)
注)2014年5月時点の医療制度に基づき、解説をしています。
- 高額療養費制度
場合によってはIBDの確定診断がつかず、医療費受給者証の申請ができない時期に高額な医療費が発生することがあるかもしれません。その場合は「高額療養費制度」が利用できます。健康保険加入者であれば誰でも利用できる制度で、1ヵ月にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が、後で払い戻されます。詳しい申請方法については、治療を行う医療機関でご確認ください。
高額療養費の助成を受けた場合の自己負担額
全国健康保険協会(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3030) (2023年12月25日アクセス)
注)2018年8月時点の医療制度に基づき、解説をしています。
②所得保障
所得を保障するものとしては、「傷病手当金」、「障害基礎年金」などがあります。これらの受給要件は個人の状況によって異なりますので、詳しくは各申請窓口にお問い合わせください。
- 傷病手当金
被用者保険加入者とその家族の生活を保障するために設けられた制度です。被保険者が業務外の病気やケガのために就労が困難になり、事業主から十分な報酬が受けられない場合に、報酬の約2/3の額が最長1年6ヵ月間支給されます。
厚労省保険局(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000619554.pdf)(2023年12月25日アクセス)
注)2020年3月時点の医療制度に基づき、解説をしています。
- 障害基礎年金
国民年金に加入している間に病気やケガで、法令により定められた障害等級表(1級・2級)による障害の状態にある間、障害基礎年金が支給されます。クローン病では人工肛門を造設したり腹壁に廔孔が生じた場合などに認定される可能性があります。認定されると、2ヵ月に1回、定期的に障害基礎年金が支給されます。
③就労支援
IBDをはじめとした難病患者さんに対する就労支援制度があります。患者さんの状況に応じたきめ細かな職業相談を実施するとともに、就職活動や職場の定着まで支援しています。詳しくはお近くのハローワーク、難病相談支援センターにご相談ください。
参考:日比紀文監修:チーム医療につなげる! IBD診療ビジュアルテキスト, p.29-33, 羊土社, 2016
NPO法人日本炎症性腸疾患協会(CCFJ)編:クローン病の診療ガイド 第3版, p.134-140, 文光堂, 2021
NPO法人日本炎症性腸疾患協会(CCFJ)編:潰瘍性大腸炎の診療ガイド 第4版, p.104-111, 文光堂, 2021
難病情報センター(https://www.nanbyou.or.jp/)
(2023年12月25日アクセス)
厚生労働省:難病患者の就労支援(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/06e.html)
(2023年12月25日アクセス)