パネルディスカッション
- 専門家に聞いてみよう
- 就職・就労継続のライブ相談会!
医師、就労支援の専門家のほか、IBD患者さん3名を迎え、「自分らしくはたらく」をテーマに、意見交換が行われました。
- 佐賀大学医学部附属病院
光学医療診療部
部長・診療教授 - 江﨑 幹宏先生
- atGPジョブトレ ベネファイ
施設長 - 藤 大介氏
- 会社員/商社勤務
- さっちんさん
- アミューズメント施設勤務
兼 フリーランスライター/
1児の母 - くわっちさん
- 公認会計士/理学療法士
- 宮内 謙一さん
- 公認会計士/理学療法士
- 宮内 謙一さん
Q1
ご自身の病気を職場関係者に
伝えていますか
さっちんさん:前職で、体調不良になりクローン病のことを伝えたところ、部署異動になってしまった経験があります。会社側は病気を知って配慮してくれたのだと思いますが、異動先では自分がやりたいこととは違う仕事内容になってしまいました。その経験から、病気を公表することが必ずしも得策ではないと考え、現在の職場では伝えていません。
くわっちさん:私は面接の際に伝えました。潰瘍性大腸炎がどういった病気かという情報に加え、働く上でどのような対策をしたらいいかも伝え、職場の理解を得るようにしています。後日、上司にどうして私が採用されたのか聞いてみたところ、「病気のことも含めてきちんと伝えてくれたので、逆に安心できた」と言ってくれました。もちろん、これまでに面接を受けて不採用になったところは何社もありますが、必ずどこかに自分のことを理解してくれる職場はあると思います。
宮内さん:職場に伝えるか伝えないかは人によると思っています。私の場合は、厳しい食事制限が必要なので、職場にも適切な配慮をしていただくために、事前にクローン病であることを伝えるようにしています。また、自分のことを正直に話しておいた方が、体調を崩した際にもスムーズに対応していただけるのではないかと思います。
江﨑先生:体調を崩した際など、診療間隔を短くしなければいけない場合もありますので、できれば職場には伝えておいていただいた方がいいでしょう。しかし、職場に伝えることにより、さっちんさんのようにご自身の意思に反したことが起きる可能性もありますので、ご自身が置かれた状況や症状によって、伝えるか伝えないかを判断した方がいいですね。
Q2
現在の職場環境や働き方について
悩んだことがありますか
宮内さん:就労前は、食事制限が一番心配だったのですが、実際に仕事を始めてみると、出張などの長距離移動が負担になることに気付きました。その時は上司に相談することで、移動距離を配慮してもらえるようになりましたが、最初のうちは、自分がどこまで頑張れるかの「線引き」ができず、悩みましたね。
くわっちさん:今は通院せずに生活できていますが、もしまた通院が必要になり、新たに治療を始めることになったら、体調や気持ちに変化があるかもしれません。もちろん新しい治療を始める前に職場の方々に相談するつもりですが、「どこまで理解を得られるだろうか」と今から心配です。
さっちんさん:仕事柄、海外出張も多く、長時間のフライトはやはり心配事も多いです。腹痛やトイレの心配はもちろんのこと、座っている時間が長いことも体の負担になります。
藤氏:企業側のIBDに関する認知・理解はまだまだ低い状況だと感じています。その状況を改善することは私たちの役割だと考えており、少しの配慮があればIBDの方も働けるということを、様々なツールを通じて広く発信していくことが必要だと考えています。
Q3
医療機関の患者さま向けサポートを
実際に受けたことがありますか
くわっちさん:以前、病院の病棟助手として働いていたときに、ソーシャルワーカーの方が患者さんやご家族とコミュニケーションを取っている光景を目にしたことがあったので、サポート体制があることは知っていました。でも、実際に自分で利用したことはありません。
さっちんさん、宮内さん:そのようなサポート体制があること自体、全く知りませんでした。
江﨑先生:まず、各都道府県に難病相談支援センターというものがありますので、活用してみると良いと思います。相談したいことをメール等で質問すれば、相談内容に応じた医療関係者から回答が得られます。その他にも、今後の課題として取り組んでいるところではありますが、日本炎症性腸疾患学会が中心となり、IBD に精通した多職種(看護師、臨床検査技師、栄養士等)の育成に力を入れています。欧米にはIBDナースという制度があり、患者さんは相談事があれば、直接看護師に電話をかけて相談にのってもらうことができます。欧米にならい、日本も多職種で患者さんをサポートしていこうという流れになってきていますので、今後、サポート体制がより充実してくるのではないかと思います。
Q4
皆さんの「自分らしくはたらく」の定義を教えてください
宮内さん:自分のペースを把握しながら、やりたいことをやっていくということだと思います。
くわっちさん:世の中にはいろいろな仕事がありますので、自分のペースに合った仕事は絶対にあると思います。いろいろな仕事を経験して自分に合ったものを探すのも一つの手ではないでしょうか。また、自分らしく働くためには、周囲を積極的に巻き込んでいくのもポイントだと考えています。
さっちんさん:働くからには「健康」でなければなりませんので、自分の体の状態を維持するために、健康のセルフマネジメントが必要だと感じています。また、働く以外に「自分らしい時間」を持つことも大切だと思います。自分の好きなことや趣味を充実させることは、病気と向き合うパワーにもなります。
パネリストからIBD患者さんへのメッセージ
さっちんさん:無理して「元気になろう、ポジティブになろう」と思わなくてもいいと思います。自然体で病気と向き合い、自分が楽しめることを何か一つでも見つけて、それを思う存分楽しんでください。
くわっちさん:IBDと診断されたとき、先の人生を思うととても暗い気持ちになりました。でも、病気と向き合い10年経った今思うのは、「『IBDだからできない』と思うのではなく、諦めなければ、自分の望む人生を歩める」ということです。病気に制限されることなく、まずは何事も「やってみる」ことが大切だと思います。
宮内さん:「やりたいことをやる」の一言に尽きます。病気を治すための人生を生きても楽しくないと思います。やりたいことがあれば一歩踏み出し、自分の人生を思い切り生きてください。
藤氏:近年、「AIに人間の仕事が奪われる」という議論が盛んにされており、最終的に人間にしかできないものとして残るのが「C」と「M」と「H」だといわれています。C=クリエイティブ、M=マネジメント、H=ホスピタリティです。
私は、この「C」と「M」と「H」は個人にも当てはめることができると思っています。「C」は、ご自身のやりたいことと向き合って、人生をクリエイトしていくこと。「M」は、ご自身をマネジメントすること。「H」は、ご自身をいたわり大切にすること。この「C」「M」「H」の三つは、ご自身でしかできないことです。この三つがしっかりと実践できれば、自分らしい未来を切り開いていくことができるのではないでしょうか。皆さんの今後のご活躍をお祈りいたします。
江﨑先生:IBDといっても、人それぞれ病状の程度は異なります。病状があまり悪くなくほぼ健康に暮らせる方もいれば、何度も入退院や手術を繰り返すほどに病状が悪い方もいます。ですので、皆さんが同じレベルを目指すというのではなく、まずは、自分の目指す姿や「落としどころ」を見つけていただくのが大事だと思っています。
また、IBD治療は現在、目覚ましい進歩を遂げています。注射薬や飲み薬の新しい薬剤もこれからさらに出てくるでしょうし、IBDの疾患研究も進んでいますので、今後、皆さんの健康におけるサポート体制はより充実してくると思います。
皆さん、病気に縛られることなく、自分の人生を自分らしく生きるために、頑張ってください。